問題の判決について

2005年7月29日
1.採尿管の挿入について
 尿検査をすると言われたときには、拒絶をしているのに、止血のために縫合手術をするが、その際に採尿管を入れるという説明には「拒絶することなく」麻酔を受けたとあります。

 何とも微妙な表現ですね。医師がどのように説明したのかが気になりますね。この説明では被告が採尿管は採尿して尿検査をするためでなく、手術のために必要な措置であると解釈した可能性があります。また拒絶がなかったから同意したとみなしていいものかどうかは、議論が分かれるところでしょう。

2.薬物検査について
 医師は被告に元々血尿の有無を見るためと説明していたのですから、被告の承諾は得ずに薬物検査をしたわけです。これについて判決は、「救急患者に対する治療の目的で,被告人から尿を採取し,採取した尿について薬物検査を行ったものであって,医療上の必要があったと認められる」としていますが、ではこの状況で薬物検査に陽性が出た場合、どのような「救急患者に対する治療」がなされたのかが興味深いところです。

3.警察への報告について
 「同医師は,その後来院した被告人の両親に対し,被告人の傷の程度等について説明した上,被告人の尿から覚せい剤反応があったことを告げ,国家公務員として警察に報告しなければならないと説明したところ,被告人の両親も最終的にこれを了解した様子であったことから」とありますが、

(1)本人でなく両親から同意を得ようとしている。麻酔が切れてからまず本人に説明するべきではなかったか。
(2)「国家公務員として警察に報告しなければならない」というのはどのような法的根拠に基づくのか。
(3)「被告人の両親も最終的にこれを了解した様子」という表現は曖昧すぎる。はっきり了解したのではないのか。
 
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 全体として曖昧な印象があり、どうもすっきりしない判決です。一読した限り、医師の説明が不足していたのではないか、という疑念が捨てられません。この医師は、結局どれ一つとして明快な同意を得られなかった訳で、違法かどうかというより、この医師の患者に対する姿勢に問題はなかったのだろうか、という疑問を感じます。

 あと個人的には、もし医師の行為が違法と判断された場合、被告の尿の鑑定結果の証拠能力がどうなるのかは知りたいと思います。というのは現在の判例では「公人が違法に入手した証拠は排除される」という判例はありますが、「医師のような私人が違法に入手した証拠」の証拠能力については判例がありません。

 この事件の場合、警察官はちゃんと令状を取って尿を入手しているわけですから、警察官の行為自体は違法ではありません。とすれば、医師の行為が仮に守秘義務違反であったとしても、警察官の行為に違法性がなければ証拠能力がある、という議論が成立する可能性があるように思えます。今回は医師の行為自体に違法性がなかったと判断したのでそこまでは踏み込まれませんでしたが、この点については判断して欲しかったような気がします。

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